小売DXは「朝9時30分」に失敗する
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小売DXは、経営会議で失敗するのではない。
店舗で失敗する。
より正確に言えば、朝9時30分のミーティングで失敗している。
その日をどう始めるか。
何を優先するか。
どの行動を取るか。
その方向性が決まるのが、朝の時間帯だ。
しかし多くの小売企業では、DX導入後も朝のミーティングの構造は何も変わっていない。
「変革している」という錯覚
本部は投資を行う。
- ダッシュボード
- AI予測
- 人流分析
- 新しいKPI
- クラウド連携
戦略資料は整備され、システムは導入される。
本部から見れば、それは確かに前進に見える。
だが店舗ではどうか。
昨日の売上を確認し、
目標を共有し、
「転換率を上げよう」と話し、
開店する。
それだけだ。
認識は増えたかもしれない。
しかし、行動設計は変わっていない。
認識は実行ではない。
本当に業績を決めている瞬間
小売の業績は、四半期戦略会議で決まるわけではない。
日々の小さな判断の積み重ねで決まる。
- 来店客数が弱い日に、接客密度を上げるか
- 転換率が落ちたときに、即座に配置を変えるか
- 滞在時間が伸びているのに売上が伸びないとき、何を変えるか
- 様子を見るのか、午前中に手を打つのか
それらは朝の段階で方向づけられる。
もしシステムがその判断を構造的に支えていないなら、
そのシステムは業績に影響していない。
朝9時30分に存在する構造的課題
多くの店舗ミーティングには、共通する3つの弱点がある。
1. 昨日は明確だが、今日は曖昧
昨日の結果は見える。
しかし、今日「何をどこまでやる必要があるか」は明確に示されない。
「昨日は弱かった」
と
「今日の条件では14時までに転換率を3%引き上げる必要がある」
は全く別の話だ。
前向きな行動設計がなければ、議論は記述で終わる。
小売は記述では改善しない。
2. 対応が個人依存
同じ条件でも、店舗ごとに対応が違う。
ある店はゾーン再配置を行い、
ある店は販促を強め、
ある店は様子を見る。
業績のばらつきが、マネージャーの個性のばらつきになる。
それは変革ではない。
不安定さの拡大だ。
3. KPIが行動に変換されない
KPIは存在する。
しかしKPIに紐づく「具体的な行動」が定義されていない。
転換率が下がったとき、
- 接客導線は変わるのか
- 立ち位置は変わるのか
- 声かけ基準は変わるのか
- 優先業務は変わるのか
もしKPIが行動を自動的に誘発しないなら、それは単なる情報だ。
情報は売上を動かさない。
行動が動かす。
経営者に問うべきこと
もし明日、DX施策が消えたら、
朝9時30分のミーティングは変わるだろうか。
変わらないのであれば、
変革は実行層に到達していない。
テクノロジーは導入された。
しかし、業務設計は変わっていない。
小売変革は「日次設計」である
小売の本質的な課題は、データ不足ではない。
判断のばらつきだ。
朝のミーティングが、
- データに基づき
- 構造化され
- SOPと連動し
- 当日の行動を明確に定義する
ようになったとき、
業績の分散は縮小する。
反応速度が上がる。
実行品質が標準化される。
これはレポートを増やす話ではない。
一日の始まりを再設計する話だ。
同じ問題はエリア管理にも存在する
エリアマネージャーがダッシュボード確認と報告依頼だけを行っているなら、業績は安定しない。
日次の判断に具体的な介入指針がなければ、改善は偶発的になる。
原理は同じだ。
業績は「判断が行われる瞬間」に設計されなければならない。
DXの本当のテスト
それは、
どれだけ高度な分析があるかではない。
どれだけKPIが整備されているかでもない。
問うべきは一つ。
朝9時30分に、何が起きているか。
その時間が変わっていないなら、
それは変革ではない。
それは報告のデジタル化にすぎない。
小売変革とは、テクノロジー導入ではない。
日々の実行設計である。
そしてそれは、朝に現れる。